どうなるんだろう・・・

2025年、また最低賃金が上がった。全国平均で1,118円。ニュースでは「過去最大の上げ幅」と報じられ、それを歓迎するような声が並んでいる。
でも、現場で会社をやっていると、「またか…」というのが正直な気持ちだ。確かに、給料が上がることは大切なことだし、生活が少しでも楽になるなら、それに越したことはない。でも、現実はそんなに単純じゃない。
まず、最低賃金が上がると、当然ながら社会保険料も上がる。これは、働く人にとっても会社にとっても同じ。
手取りが増えたようで、実際は保険料でごっそり持っていかれる。
見た目の数字は良くても、生活が豊かになった実感は湧かない。
会社側からすれば、人件費が増えて、そのうえ社会保険料の会社負担も重くなる。人を雇うリスクとコストが、また一段と上がったということ。
うちのような中小企業は、簡単に価格転嫁なんてできない。燃料も車両代も、保険も何もかもが上がっていくなかで、運賃は据え置きに近い。
最低賃金が上がっても、値上げ交渉なんて通らない・・・というか、お客さんの状況を見ていると出来ない。
結局、どうするかといえば、人を減らすか、自動化するか、外注に切り替えるしかない。つまり、最低賃金を上げた結果として、「雇用が減る」現象が起きる可能性が出てくる。
物価も上がっていく。企業がコストを回収しようとすれば当然だ。最低賃金が上がるたびに、スーパーの総菜や日用品の価格がじわじわと上がっていく。結果、給料が上がっても生活は楽にならない。逆に、非正規雇用やパートの人たちは、シフトが削られて収入が減るということも・・・
じゃあ、最低賃金を上げることが間違いなのか?と言われたら、そうは思わない。ただ、それをやる前に、本当にやるべきことがあるんじゃないかと思う。
日本には、もう何年も“成長戦略”がない。
何年もというか、僕が大学時代の研究室でも予算が無いと言っていたことを思い出す・・・技術的な基礎力の向上に予算を割いて来なかった。
どの産業を伸ばして、どうやって稼ぐ国にしていくのか。ただ、華やかにみえる産業や業界にお金を回して、土台となる気その部分には全く目を向けてこなかった。その議論が、ほとんど聞こえてこなかった。
その結果、他の国に技術は凌駕され、地方では人が減り、仕事も減り、事業を続けるインセンティブも消えていく。人を育てるどころか、今いる人を維持するのも難しい時代だ。
そんな中で、「最低賃金を上げました」って、あまりにも軽い。制度的には正しいかもしれないけど、現場の声を全然聞いていないように思える。
成長もせず、賃金だけ上げても、国の体力は持たない。生活も良くならない。雇用も守れない。最低賃金の引き上げは、「結果」であるべきで、「手段」ではないはずだ。実態が伴わないまま数字だけが一人歩きしても、国民は疲弊するばかりだ。
僕は経営者として、当たり前の話できるだけ社員にちゃんと給料を払いたいと思っている。でもそれが、数字だけに振り回されて、自分たちの足を食うような形になるのなら、話は違う。中小企業の経営は、もうギリギリに近い・・・
声を上げる余裕もなく、じっと耐えている経営者は多い。でも、たぶんみんな思っている。「このままじゃ、持たないな」と。
最低賃金を上げる前に、本気で考えてほしい。誰がどうやって、何を生み出していくのか。どこで、どうやって雇用を維持していくのか。僕たちはもっと稼げるようにならないといけないし、それを支える仕組みが必要だ。
今のままじゃ、生活は楽にならない。それだけは、はっきり言える。